耐火工事屋さん: 2010年2月アーカイブ

はつり

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はつり。

一般には使わない言葉でしょうか。

はつりと言ってわかる人はどれくらいいるのでしょう。

はつりとは、コンクリートや岩盤をノミで突っついて、壊すこと。

壊すときに相当大きな音と、衝撃が発生するので、"突っついて"という言葉は少し雰囲気が合わないように思いますが、いずれにしろコンクリートを壊す作業で機械や手でもつ工具で行う仕事です。

 

橋の補修方法にはいろいろありますが、今回の場合は悪いコンクリートを取り去って、良いコンクリートに置き換えるという方法を取っています。

この方法を断面修復工法といいます。

ここで、さっきと同じように"取り去って"だとか"置き換える"だとかいう言葉を使っていますが、実際の現場で行われる作業はもっとヘビーで重労働です。

 

この橋のコンクリートは悪くなっているとは言え、大部分は普通に硬いコンクリートです。

金槌でたたいて壊れてしまうようでは、とても危なくて上を車で走れません。

だから手で持てる機械で激しく突っついてえぐり取ってしまうのです。

街中のビル解体現場ではパワーショベルで派手に壊しているのを見かけますが、橋の補修の場合はコンクリート表面から深さ3cm程度だけはつります。

 

M0024995.JPG大きな機械で壊せばどんどん壊れますが、それでは橋がなくなってしまいます。

必要最小限のコンクリートだけ取り除くのですから、人の目で余分にコンクリートを取ってしまわないように、さらに鉄筋が傷ついていないかよく確認しながらの作業になります。

地味な作業ですが、やっている人は大変です。

ハンマーはなるだけ小さなものを使いますが、それでも重さ5kg程度あります。

そのハンマーを横に向けたり、上に向けたりしてコンクリートをたたくのですから、きついことといったら文章では伝えられないくらい、我慢我慢の連続だと思います。

想像ですが、きっとフルマラソンを走るくらい我慢が必要な作業ではないかと思います。

作業をする人たちは普段から体の鍛え方が違うので、私などが手伝いたいといったところで邪魔なだけだとは思いますが。

 

R0017877.JPG話を元に戻しますと、悪いところをはつり取ったあと、鉄筋のサビを除いて、サビ止めを塗り、その後モルタルを塗りつけます。

 

モルタルはコンクリートから大きな石を除いたもので、砂とセメントと水から出来ています。

これで、断面修復工の作業は終わりです。

 

 

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M0025181.JPG補修のために足場を組み立てました。

吊足場です。

青く見えるのはブルーシート。

取り壊したコンクリートの破片が外に飛び出さないように足場の全周をシートで覆いました。

また、シートで覆うことでとりこわしの際のホコリが外に出ないようにしています。

さらに、海からの塩水をシャットダウンすることが出来るので、取り壊しで露出した鉄筋に塩分が付着するのを防ぎます。

さらにさらに、冷たい外気が直接当らないので、取り壊しの後塗りつけるモルタルが冷えて強度が低下することを防ぎます。

ついでに多少の雨ならばこのシートで受けることが出来るので、雨の日でも工事が可能になります。

シートで覆うことでこんなにいろいろ便利なことが増えました。

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外から見るとこんな形です。

左したのスキマはまだ組立て途中でしたので、まだスキマがあります。

海からの風や道路を走る車が起こす風はとても強くて、シートを破って巻き上げるかも知れません。

万が一シートが破れたときのためにシートの上にネットをかぶせました。

これで夜間や日曜日も安心して休めます。

 

しかし、問題がひとつ。

シートで囲ってしまったことで、足場の中は空気がよどんでしまい、コンクリートをとりこわすときに発生する粉塵がこもってしまうこと、これが大問題でした。

そこで、

R0017594.JPG空気を強制的に排除するための送風ファンをつけました。

20mにつき2箇所設置しています。

これでこの20m区間の空気は1分半程度で全て喚起できます。

ファンの出口には粉塵を捕まえるために、専用のフィルターをつけました。

 

 

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白い筒状の物体がフィルターです。

実際作動させてみましたが、目に見える粉塵はそとに出ませんでした。

 

 

 

 

 

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粉塵が足場全体に充満しないように20mに一箇所毛布による間仕切りをつけました。

これで取り壊し作業を行っている隣ではかなり粉塵が減りました。

 

 

 

 

さて、実際とりこわし作業を行ってみたところ、

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これではまるで霧の中にいるようだ。

これではいかん。

何が問題か。

そうだ、空気の流れがないからだ。

別の送風機で新鮮な空気を供給してやればよいのではないか。

 

 

ということで、

M0024989.JPG下にある二つの丸いのが空気を入れるための送風ファンです。

 

 

 

 

 

 

R0017813.JPGこれで 足場の中はかなり粉塵は少なくなっていることがわかります。

でも、いつものことながら、作業している皆さんには本当に感謝です。

皆さんよく我慢して作業しています。

この工事も無事、誰も怪我することなく終えることができるようにがんばらなければなりません。

 

 

この瞬間の足場の外の状況です。

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少し白くなっていますか?

シートのスキマから少しもれているようです。

しかし、反対側では、

 

 

 

 

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まったくホコリが舞っていません。

 

 

 

 

 

 

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この日も青い空ときれいな海でした。

作業員のみなさん、大変ですがもう少しよろしくお願いします。

 

裏の顔

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去年の9月から5ヶ月間、この橋を見てきました。

静岡市清水区由比にある国道1号由比川橋。

下り線は昭和53年に築造されたコンクリート橋です。

M0022698.JPG橋の長さは約120m。

写真の左側は上り線で右側が下り線です。

写真は橋の下から撮影しています。

橋の右側に見える大きな管は工業用水の管路です。

 

 

 

M0022719.JPGこの場所から海をみるとこんな感じです。

向こうに見えるのは東名高速道路の橋です。

光っているのは駿河湾。

国道から海までは50mほどです。

大きな台風が直撃すると通行止めになるところです。

 

 

 

M0022717.JPG山のほうをみるとこんな感じです。

東海道線を走る貨物列車が見えます。

日本の交通の要衝といってよいでしょう。

 

 

 

 

昨日書きましたが由比川橋は劣化が激しく、その劣化にはいくつかの種類があります。

まず、見てすぐわかるのがコンクリートのひび割れ、浮き、はがれ、鉄筋の露出です。

実際の由比川橋の状況を見てみましょう。

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これがコンクリートがひび割れているところです。

コンクリートが浮き上がり、叩けば落下する部分もあります。

 

 

 

 

 

M0024369.JPGこれは浮いたコンクリートが剥がれ落ち、鉄筋が露出しているところです。

露出した鉄筋はすでに錆びています。

 

 

 

 

 

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この写真はコンクリートのひび割れから染み出たコンクリート中の水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素と結合してできた炭酸カルシウムの結晶で遊離石灰と呼ばれます。

遊離石灰のあるところにはひび割れがあると考えられます。

 

 

 

 

ひび割れなどの劣化の原因はいろいろあります。

その原因を並べてみると・・・、

塩害(塩水や凍結防止剤の影響)

コンクリートの中性化(二酸化炭素などのガスの影響)

アルカリ骨材反応(骨材とはコンクリートの中に使っている石のことで、その性質による影響)

凍害(コンクリートが凍ってしまったときの影響)

疲労破壊(橋の上を走る大型車両などから繰り返し力を受けた場合のその影響)

PC鋼材等の劣化(PC鋼材とはコンクリートの中にある鋼材でコンクリートが受ける力を軽減する方向に力を発揮する鋼材で、その腐食による影響)

基礎の不同沈下(いくつかの基礎が沈下したとき、その沈下の大きさがそれぞれ異なった場合の影響)

水和熱による膨張や乾燥収縮(コンクリートが固まるときに発生する熱や、中の水分がなくなるときのコンクリート自体の膨張や収縮による影響)

化学的腐食(下水などに含まれる化学物質による影響)

火害(コンクリートのそばで大規模な火災があった場合の高熱による影響)

とても覚えきれないので参考書から写しました。

ほんとにたくさんあるんです。

 

由比川橋の場合、この原因のなかでも塩害によるものが一番影響していると想像できます。

それはこの橋がとても海に近いからです。

 

もし近所の橋の近くを歩くことがあれば、少し目を凝らしてコンクリートの表面を見てみてください。

何かしら劣化しているところが見つかるかもしれません。

 

表の顔、道路から見た橋梁は便利で頼もしく、とても頑丈にみえるでしょう。

しかしその下、裏の顔をみたら実はもうしわだらけの老人になっているかもしれません。

 

私はこういった劣化は時間が止まらない限り永遠に続くものだと思うのです。

やっぱり道路は生きているんだなと、ひとり感じ入ってしまうのです。

 

次回は由比川橋を直す方法、補修の方法について書きます。

 

 

 

 

 

 

調査

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調査。

アンケート調査、動向調査、。

調査というと、調査官がでてきて取調べでもしそうな雰囲気の言葉ですが、今回は橋の痛み具合の調査の話です。

 

国道や県道にかかる橋は橋の持ち主によって定期的に点検されています。

橋の持ち主とは国や都道府県、市町村、高速道路会社、鉄道会社などです。

M0022040.JPG今の日本、公共の道路にかかる橋はいったいいくつあるのでしょう。

すみませんが私はその数を知りません。

きっと想像を絶する数になることと思います。

私たちの先祖がこつこつと築き上げてきたこのみんなの財産を大切に使わなければならないということは誰も疑わないでしょう。

でも、その点検といったら大変な仕事の量だろうなということもまた誰しも簡単に想像されると思います。

 

橋は大まかに言ってコンクリートの橋と鉄の橋があります。

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町の中のコンクリートの高架橋

 

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とある県境にある川に掛かるコンクリートの橋

 

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川に掛かる鉄でできた橋

 

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鉄でできた高架橋

 

コンクリートの橋には鉄筋が入っています。

その鉄筋がコンクリートと一緒に橋を支えているのですから、橋にとってはそれは筋肉であり、骨でもある大切な一部分です。

この鉄筋が痛んでいては橋自体も健康ではいられません。

でも鉄筋はコンクリートの中にありますから普段は見えないわけで、

なので点検はまず橋の外観から調査します。

 

M0023982.JPGたとえば、

ひび割れはないか。

鉄筋のさびは出ていないか。

コンクリートは剥がれ落ちていないか。

などなどです。

 

 

点検の結果をまとめて橋の状態を診断し、対症療法を決定します。

最近はライフサイクルコスト(将来の維持管理に掛かる費用)まで含めた費用対効果が非常に注目されていますので、対症療法の決定まではなかなか難しい過程があると思います。

車で言えば、修理すれば20万円掛かるけど、あと半年で車検なんてことになったらどうする???

お金さえ余裕があれば買い換えようかどうしようか?迷うといったところでしょうか。

ん?

橋の架け替えなんてなったら車を買い替えることの比べようないくらいお金が掛かりますから決して同じとは言えませんね。

 

次回は今回工事する橋の実際の様子を書きたいと思います。

 

道路は生き物?

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M0023798.JPG静岡市の清水区由比を通る国道1号の橋です。

右に見えるのは東海道本線。

写真にはありませんが、左には東名高速道路があります。

海のそばを走るこの場所は天気のいい日ならドライブするにはとても気持ちのいい場所です。

 

いま私たちはここの下り線側の橋の下で工事を行っています。

昭和53年につくられたこの橋は今年で31才。

人間ならばいろんな人生経験を積み、体力気力とも充実の三十代前半。

仕事もひと通り覚え、一番活躍できる年代の始まりといったところではないでしょうか。

しかし、作られてから30年たったこの橋はすこし病んでいます。

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ここは国道から海まで約50m。

晴れた日は海がきれいに見えます。

 

 

 

 

 

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景色はとても良いのですが、コンクリートにとっては非常に厳しい環境になってしまいます。

海風が強い日、波が高い日は、海水が空中を漂い常に橋の表面をぬらします。

その海水の中に含まれる塩分はやがてコンクリートの表面から内部にしみこんで行き、中にある鉄筋を錆びさせてしまうのです。

錆びはコンクリートを少しづつ押し出し、ついにはコンクリートの表面がひび割れてしまい、破片が落下します。

そこからさらに塩分が進入し、もっと鉄筋をくさらせることになってしまいます。

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ここは西側の橋脚付近ですが、コンクリートが剥がれ落ちてしまっています。

 

 

 

 

 

 

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中央付近では錆びた鉄筋が見えています。

 

 

 

 

 

 

このような箇所が橋全体に広がっていました。

これまで土木構造物をいくつか作らせてもらった私はこの橋をみて、なんだか心にざらっとしたものが触ったように思いました。

このまま放置すれば腐食はますます進み、橋自体の強さも失ってしまうかもしれません。

補修は緊急を要する! 国土交通省の強い要望があり当工事で補修工事を実施することになりました。

学生のとき、鉄筋コンクリートは半永久的に壊れない材料だと先生から教わりました。

しかしそれは完璧な条件のもとで打ち込まれ、なおかつ外からの浸食がない環境にあるときだけだと、この橋を見て私は思いました。

コンクリートや鉄で出来た橋は、人間の体が年老いていくのと同じように、海からの塩水やその上を走る車の重さなどから攻撃を受け次第にその体が衰えていくものなのです。

定期的にお医者さんの診断を受け、ときには治療が必要なときもあります。

橋や道路は生きています。

これから私たちはこの橋を直します。

将来もずっと安全に走れる道路を作るために。

これからが、工事の第2ステージです。

 

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